日本発達心理学会第28回大会 自主企画シンポジウムのご報告
日本発達心理学会第28回大会(会期:3月25日~3月27日)において、自主企画シンポジウムを開催しましたので、ご報告いたします。
日時・会場・テーマ
日時:2017年3月27日(月)13:00~15:00
会場:広島市文化交流会館 B4 銀河1
テーマ
自主シンポジウム SS8-3
「自閉症スペクトラム特性をもつ子どもの保育を考える―生涯にわたるWell-beingの礎となる乳幼児期の発達保障のあり方とは―」
内容
企画趣旨
研究の進歩に伴い,自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)の早期発見が可能になってきている。そして,早期発見と「的確な」早期支援が生涯にわたるWell-beingに対して有効であることを示す証拠が蓄積されつつある。
DSMの改訂に表されるように,自閉症スペクトラム障害(ASD)にはスペクトラム概念が導入されている。日本で行われた調査でも,非臨床群において自閉症傾向(以下AS特性)が連続的に分布しており,自閉症スペクトラム指数(AQ)のカットオフ基準を上回る人々が3%弱,カットオフ基準周辺得点を示す人々(31点以上)も含めると10%以上にのぼることが明らかにされている(若林ら, 2004)。
本田(2013)は臨床医としての経験から,症状(ASDに関わる特性,以下AS特性)の軽重と社会適応の良否が必ずしも線形に対応しない可能性を指摘する。そして,むしろ近年深刻な問題になっているのは,思春期以降,それまでは軽症であった(AS特性に気づかれなかった)ために特に支援を受けてこなかった人々が深刻な抑うつ状態や不安状態を呈したり,社会場面に参加できなくなったりすることであり,こうした二次障害の予防のためには一見軽症な人たちに対しても何らかの配慮があることが望ましいとしている。自らが発達障害に関する研究をしており,かつ発達障害傾向にあると自認する研究者たちも,自己の苦しかった体験(トラウマや自己肯定感の低下をもたらしたエピソード)を考察する中で,幼少期から周囲が特性に気づき,適切な対応をしていくことが重要である(そうして欲しかった)と述べている(水野ら, 2015/2016)。
共働き世帯の増加に伴い,より多くの子どもたちが低年齢から長時間にわたり保育所に通うようになった。これはAS特性をもつ子どもたちがより多く・より早期から・より長く保育所で過ごすようになったことを意味する。保育所や幼稚園を対象とした研究で,配慮が必要な子どもが多く気づかれているものの(笹森ら, 2010),未診断の場合には診断を受けた子どもに比べ支援の必要性が保育者に感じられにくいことが指摘されている(原口ら, 2015)。また,木曽(2013)は,発達障害傾向がある子ども(未診断の子ども)の多さと発達障害に関する知識不足が保育士のバーンアウトに影響していることを明らかにしている。加えて,保育・幼児教育施設は最も身近な子育て支援機関として以前に増して重要な役割を果たすようになってきているが,園外の専門機関との連携や情報収集(三宅, 2010),保護者対応(郷間, 2008)等の点で,様々な課題があることが報告されている。
以上のように,保育・幼児教育施設は,乳幼児期を通じて多くの時間を過ごす場,そしてAS特性をもつ子どもの親支援の場として非常に重要な役割を果たすと考えられる。そこでシンポジウムではまず,AS特性をもつ子どもの保育や子育て支援をめぐる現状や課題を,4つの異なる視点・レベルの話題提供(①地域の支援システムの構築,②自治体関係者[首長・担当者]の取り組みや認識の実態,③保育・幼児教育施設における支援の実態と課題,④発達基礎科学分野から最新知見に基づく新しい課題の提示)で共有する。その後,今後保育・幼児教育施設がAS特性をもつ子どもたちの発達を保障し,生涯にわたるWell-beingの礎を築く場として機能していくためには,いかなる制度・政策,実践が必要かを議論していきたい。
登壇者
企画・話題提供者:高橋 翠(東京大学)
司会・指定討論者:遠藤 利彦(東京大学)
話題提供者:三隅 輝見子(川崎市南部地域療育センター)
話題提供者:淀川 裕美(東京大学大学院)
話題提供者:野澤 祥子(東京大学)
話題提供者:関 智弘(東京大学)
話題提供者:小西 行郎(同志社大学)
指定討論者:萩原 拓(北海道教育大学)
日本発達心理学会第28回大会 自主企画シンポジウム報告書
ポスター発表
石井悠
病棟保育士が経験する倫理的葛藤の検討