開催報告
講演 「発達障害を持つ子どもと家族を支える支援」
市川 奈緒子(白梅学園大学教授)
平成30年度第1回目の子育て・保育セミナーでは、白梅学園大学の市川奈緒子先生から、「発達障害を持つ子どもと家族を支える支援」というタイトルでご講演いただいた。
ご講演では、まず現行の制度・支援体制において、乳幼児期に確定診断を行い、専門機関に送ることだけを意味する狭義の“早期発見・早期支援”が保育現場にもたらしたことについてご指摘いただいた。その上で、子どもを分けたりラベリングしたりしない保育・「気になる子」という、保育者の主体性や関係性が含まれた概念(言葉)の重要性、多様な発達的特性をもつ子どもたちを捉える保育者(=子どもの育ちの専門家)の役割についてお話いただいた。
その次、粗さ感と皮膚振動の関係に関する研究が紹介された。この研究では、材料の主要な触覚の1つである粗さの知覚に焦点を当てた。その結果、皮膚振動が主観的粗さをよく反映することを明らかにした。また、皮膚振動の個人差が自発接触力の個人差よりも小さかったということが触動作の個人差に関する研究において示唆された。そして、知覚の個人差に関する研究によって,粗さ感への寄与について,時間情報(皮膚振動),空間情報(粒子径),摩擦係数の観点から検討すべきことを知り、ある参加者にとって空間情報が重要であり,ある参加者にとって時間情報が重要であることがわかった。
その後、子どもの姿・行動から、子どもの発達特性と子どもがこれまで身につけてきたこと、そして現在置かれている環境など、その行動をもたらす背景を分析する保育者のアセスメント力(=子ども理解力)と、アセスメントに基づく保育実践について具体的な事例に基づきお話いただいた。
最後に、保育者のアセスメント力(長所やできるようになったこと/育ったことも含む子ども理解)とそれに基づく保育実践がいかに保護者支援に寄与するかについても解説していただいた。ご講演を通じて、子どもの育ちを時間軸と状況の中で見る保育者の専門性(=ジェネラリストの卓越性?)について改めて気づかされるとともに、そうした専門技能を持つ保育者をエンパワメントすること、すなわち、保育者が自身の卓越性に気づき、自らの視点と言葉で特別支援を語ったり、取り組んだりすることを支え促すことの重要性について考えさせられた。
今回のご講演は、地域での特別支援/育ち支援における他機関連携や専門家間連携について、保育園(日々の育ちの場)・保育者(日々の育ちを支える専門家)の役割や、そこにおける専門性という視点を含めることの重要性を改めて考えさせられる重要な機会になったように思う。
報告: 高橋 翠(発達保育実践政策学センター特任助教)
参加者の声
- 発達障害を含め、様々な子どもたちをどのような視点で見て、どのようなマインドで接すると良いのか、分かりやすく教えていただいて勉強になりました。 障害の有無にかかわらず、全ての子どもが自信をもてるよう、個性を引き出す保育、そして」社会の構造づくりに尽力したいと思いました。
- 子どもをどう理解するか、それを保育者同士や保護者と伝えあったり、これから具体的に何をしていくか、話し合う時の自分の姿勢がかわると思いました。とても意義深いお話ありがとうございました。
- 日常関わっている子ども(発達障害)に対して、自分の見方を押し付けていたというか、その子どもの本質を見ようとしていなかったなと反省しました。前向きに、子どもが安心出来る空間をつくっていこうと思います。
- 1年目でいっぱいいっぱいの中、日々の保育を行っていますが、保育をすすめることにとらわれてはいけないと思いました。子どもの姿をよく見て、気付いたことを記録することで、また次の保育に活きると思いました。
- 研究と保育現場の架橋となっている市川先生ならではの視点を聞かせていただくことができ、大変学びの深い時間となりました。
- 専門性とは何か、について深く考えさせられました。興味深いお話大変ありがとうございました。
- 貴重なお話をありがとうございました。門外漢ながら、保育現場の抱える問題と力について学ぶことができました。