Cedep 発達保育実践政策学センター

第3回 発達基礎科学セミナー

日時
2016年6月20日 (月) 15:00〜16:30
場所
東京大学工学部 12号館408号室
講演

「個性の発達の問題を統計的推測理論および統計的モデリングから考える」

駒木文保(東京大学大学院報理工学系研究科)

参加者の声

  • 前半は、振動子の周波数帯域が変調している場合、どのように振動子の位相を算出するか、というテーマでお話をしていただいた。一般的に、振動子の位相を算出する際には、ヒルベルト変換によって、隠れた状態(振動子)を推定する。しかしこの手法には、ヒルベルト変換時のフィルタリング幅の恣意性や、ノイズに対する頑健性の問題が存在している。そこで、振動子が常に位相揺れを持つと仮定した上で、振動子の位相・個数を算出するための手法について、ご説明頂いた。今回説明いただいた手法のポイントは、振動子同士の相互干渉を無視し、かつ線形ガウスモデルで振動子を記述していることで、これによりカルマンフィルターを用いた成分推定が出来ることだという。同時に、振動子の個数も、AIC(実際は最尤推定を組み込んだABIC)で一意に決めることができるという。まとめると、振動子を記述する際に、恣意的なフィルタリングや、人為的な振動子の個数設定をせずにデータ処理ができることが、本手法の特徴だと言えそうだ。会場からは、振動子同士の相互作用(e.g. 蔵本モデル)を考慮したほうが実践的ではあるという指摘が出ていたが、それは線型性を失うことを意味しているため、推定が難しくなるという。だが、恣意的なフィルタリングをせず、かつ、振動子の個数ですらこちらが設定せずともよい、という意味では、(線型性を持つデータにおいては)よりデータの本質を抉り取るような手法であるとも言える。話をお伺いしていて、今後非常に役に立ち、かつ、発展性の高い解析手法なのではないか、という感想を抱いた。後半は、マーク付き点過程を用いた、無限混合モデルについてのお話をしていただいた。例えば、場所細胞の発火からマウスの位置を特定するようなデコーディングを行う場合、普通は発火パターンから特徴量を抽出し、機械学習をさせるというスパイクソーティングが必要であった。しかしこの手法においては、情報の損失や誤差がつきものであると同時に、発火を0/1で記述するため、条件付き強度関数の推定問題なども生じていた。そこで、事象の発生時刻と、その発生時刻における特徴量を用いたマーク付き点過程を用い、ある電極から取れたデータの裏にある神経細胞1つ1つの活動を推定しよう、という取り組みを説明していただいた。特に面白かったのは、有限個の神経細胞を推定するところを、あえて無限個の足し合わせとして考えるところ(無限混合モデル)である。これにより、電極近傍の神経細胞が幾つ発火したか、という問題が回避でき、かつ、実際のデータをよく説明できるような推定が可能になるという(残念ながら、私の数学的な知識が足りず、詳しい手法については理解が及んでいないことをご了承願いたい)。まだ研究途中の部分もあるようだが、今回の手法で、神経細胞のスパイクパターンそれ自体が推定できるようになれば、脳のハードウェア的な意味での理解も深まるのではないだろうか。非常に数学的な議論が続いたため、一部理解が及んでいない部分もあるが、駒木先生のお話を伺っていて、ただ単純にデータを解析するのではなく、その手法の背後にある理論を知り、適切な解析手法を選ぶ必要があることを痛感した。同時に、解析手法を工夫することで、既存データから新たな知見を抉り出せるということも、新鮮な驚きであった。今後データ処理をする上で、本セミナーで学んだことを活かせるようにしたい。
  • 今回の駒木先生のお話は主に「確率」の話だったように思います。しかしそれは、「個性」というものを考える上でも非常に役立ちそうなテクニックだと思いました。例えば脳波のもつランダムなゆらぎについて、従来はないものとして切り捨てられていたところを、ランダム周波数成分を考慮した状態空間モデルによってより精度の高いモデルを提案できるようになったというお話がありました。これは冒頭で多賀先生がおっしゃったような、我々の分野で今まで行われてきた,グループ毎の分散をあまり考慮しないような研究スタイルとは逆行するようなアプローチだと私は感じました。今回の講演を通して、数学的な素養のない私にとってはまだまだ理解が追いつかない部分も多々ありましたが、私だったらノイズとして切り捨ててしまうような、得られたデータとモデルとの小さな誤差まで説明できるように丁寧にモデルを作り込んでいく姿勢というのが、「個性」を考える上でも非常に重要だと思いました。
  • 専門的な内容で統計初学者である私にとっては難解な内容でしたが、スライドや説明が大変わかりやすかったです。なんとなくではありますが、個性の発達についての問題を統計的モデリングからみた考え方などを知ることができました。また、ベイズモデルの応用例でお話しされていた、ベイズ季節調整法はとても興味深かったです。曜日効果も考慮できることで、新築物件数等の予測精度を上げることができると 聞いて、ベイズモデルが実際にどのように私たちの日常に役立っているかを理解することができました。
  • 私自身は統計学に明るくなく、理解が追い付かない部分も多々ありました。
しかしその中でも、時系列データの解析において、
時系列データを(トレンド)+(季節)+(観測ノイズ)の成分で分解することで、
予測精度があがる、という部分が印象に残りました。
時系列データ解析の話はその日初めて聞いたのですが、構成要素に分解する、
というアイデアは他の分析手法にも共通するところだと思います。
どんな難解な統計分析でも、基本の考え方は変わらないのかもしれないと気づき、感銘を受けました。
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