Cedep 発達保育実践政策学センター

第4回 発達保育実践政策学セミナー

日時
2015年7月8日 (水) 18:00〜20:00
場所
東京大学教育学部 第一会議室
講演

「建築設計からみた保育環境」

佐藤将之(早稲田大学人間科学学術院)

ご専門の、環境心理学、建築計画学、こども環境学の観点から、様々な事例とエピソードとともに日本の保育所の建築設計の現状と課題についてお話しいただいた。 最 初に古代ローマ時代の城郭の設計者ヴィトルヴィウスによる建築の三大要素、「強・用・美」が紹介された。それぞれ強度・構造、用途・機能、美しさであり、 その重心の見極めが大事だということである。保育所は子どもたちが生きる場所。主体性を育むためには特に「用」が重要。その際「誰のための保育建築か?」、「子どもの目線から捉え直すとどうか」という問いが不可欠。大人からみると機能性に満ちた「棚」であっても、子どもからみると「壁」というケースは多い。より良い設計のために、保育実践者とワークショップで一緒に考え、時には父兄を現場に招いて一緒に園庭を改良する。これからの保育建築デザインは、愛着が湧く建築、作る工程に携わる人が主役となる建築、使いこなせること、色んな人を巻き込めることが鍵になるという。最後に、「保育者を建築家に近づける」(空間想像力を向上させる)ことの大切さにも言及された。 ディスカッションでは、公立・私立での建築の違い、建築によってもたらされた子どもの行動変容の評価手法、保育所以外の一般家庭等での子どもや赤ちゃんを意識した建築要素や概念の有無、建築における光と影への意識など、多彩な質問が 投げかけられ、数々の写真とともに興味深い解説が続けられた。

「リズム障害としての自閉症」

小西行郎(同志社大学赤ちゃん学研究センター)

ご専門は小児神経学。長年にわたる小児科医として、常に赤ちゃんと子どもの心と体に寄り添うまなざしとともに、時にユーモアを交えて、時にシリアスに、様々な問題提起と解説をいただいた。   発達とは胎児期から始まる変化の連続という俯瞰的なお話に始まり、具体的例としてASD(自閉症スペクトラム障害)児を理解するというお話に移っていった。母体の異常、胎児の異常などの出生前危険因子に加えて、誕生後の因子として、とりわけ「睡眠障害」に焦点が当てられる。睡眠覚醒リズム形成不良、あまり寝ない過剰反応型や寝すぎる低反応型はASD、さらにはADHD(注意欠如多動性障害)を併存する可能性を高めるという。長期的影響としては、発達障害、血糖値の異常、認知症などとの関連性も示唆され、全身的な病として理解していく必要性も述べられた。  ASD児を支えるために、保育をはじめ とした発達段階での遊びや人との関係が何よりも重要になるという。保育の現場では正常化を促すのではなく「あなたと私はつながっているよね」と感じさせてあげること、臨床の現場では診断だけをするのではなくその子が生きやすいように理解して支援すること。ASD児の自己の確立は、自分と同じ感覚や思いを持つ他者の存在が不可欠なのである。  最後に、保育実践と保育政策の現状に科学的根拠が不足している可能性、今後は確かな研究成果を社会に還元するためにAll Japanの体制で取り組んでいくことの必要性、そのための人材育成の大切さが強調された。

参加者の声

佐藤先生と小西先生ともに、異分野研究の融合、基礎研究と現場を結ぶ、というテーマをまさに体現し、終始本音ベースで、多くのユーモアを交えつつ、問題に 対して真摯に取り組まれておられ、大変多くの示唆をいただいた。2001年に、学術分野を超えて赤ちゃんを総合的に理解、研究する日本赤ちゃん学会が設立され、小西先生が理事長を務められている。筆者も今年度初めて参加し、多くの出会いに恵まれた。学術の統合と新しい分野の開拓を推進するという当学会の課題は、当センターの課題と重なる面が大変多い。今後、関連の学会、大学・研究機関、協会、行政・国際機関をはじめ、広くかつ互恵的に連携を充実させ、保育の質の向上を実現していくための大きな力が得られた。

報告:山邉昭則(発達保育実践政策学センター特任助教)

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