Cedep 発達保育実践政策学センター

第35回 発達保育実践政策学セミナー

日時
2023年7月20日 (木) 13:00〜14:30
場所
オンライン
講演

「保育所における与薬に関する課題と薬局薬剤師による支援の検討~社会資源としての保育所と薬局の連携可能性~」

柳 奈津代(東京大学教育学研究科臨床心理コース/東京大学薬学系研究科)

保育所に通う園児に薬物治療が必要な場合、保育施設によっては保育士などの職員が薬を飲ませたり、薬を塗ったりすること(与薬)があります。これは2005年の厚生労働省医政局長通知において、一定の条件を満たしている場合にはこれらの介助が医療行為とみなされないと示されたことによるもので、与薬を引き受ける保育施設では本来の保育業務に与薬業務が加わり、職員の負担や困難感が報告されてきました。東京都内の認可保育所等の調査では、与薬による多忙や人手不足、間違えてはいけないとの思いや緊張感が続く等の心理的な負担のほかに、複数のヒヤリハット事例や、与薬業務によってクラスの保育が滞った事例などもみられました。一方で、子どもの体調が悪くても職場での理解が得られにくく、薬を飲ませて子どもを預ける保護者の様子が記述されるなど、多くの課題が明らかになりました。当講座では、近年対物業務から対人業務にシフトしてきた地域の薬局薬剤師の職能に着目して研究を行っており、調査では4割弱の保育施設が薬剤師の支援があるとよいと思うと回答し、保育施設から薬剤師への健康や薬の相談、保育職への研修や保護者への健康支援などの協力については5割前後で肯定的な回答がみられました。

日中の与薬が必要不可欠な場合の安全な与薬環境を整備し、子どもたちの保育環境を守れるよう、薬剤師による保育士や保護者への具体的な支援策について検討を続けています。地域の社会資源である保育所と薬局の連携可能性も視野に入れた、薬剤師による支援の可能性と今後の展開について、皆さまからご意見をいただき、議論の場とさせていただけますと幸いです。

参加者の声

  • 本日は、ありがとうございました。看護師の立場として、保育士の先生との意見を聞き、小児薬の特徴やマニュアルなど、今一度話し合いをすることが大切だと感じました。
  • 大変興味深く拝聴させていただきました。ありがとうございました。
  • 医薬分業後も医の権限が大きいので、薬の存在意義が問われており、薬の役割の拡大になるかもしれませんが、費用分担が難しい。
  • 保育園で看護師をしているのですが、私の勤務する保育園でも、保護者の方で咳や鼻汁などの症状がひどく、子どもの様子や機嫌も悪いが登園させる方もいるため、薬局で薬剤師さんから症状についての説明や、しっかりと休養を取ることを説明していただけると、とても助かります。薬剤師さんと連携をとることで、保育園内でも安全に与薬ができると感じるため、これからたくさんの園が連携をとれるといいなと感じました。今回は貴重な機会をありがとうございました。
  • 千葉市のモデルケースのご紹介ありがとうございます。今後自分の地域でもそのようになってほしいなと思いました。
  • 大変貴重なお話をありがとうございました。保育実践に関わる研究をしてきましたが十分に目を向けられていなかったことで、とても勉強になりました。保育者は日々、保護者に伝えることや要望を受けることで様々な困難や工夫があると思っており、与薬の要望もそのうちのひとつとして大きな負担となっているのだなと今回思いました。保護者全体へのお知らせ(入園当初や、毎月のおたよりなど)で伝えても全員にうまく伝わるとは限らず、一方で個別に伝えるには保護者を責めない配慮なども必要になり、とても難しいところですが、薬剤師の方に専門家として関わっていただくことで、より良い形で保護者が育っていくことにもつながるように思います。また一方で、園は集団生活であり、子どもがじゅうぶんに家で休養できるのは回復に一番の近道ですが、そのつど仕事を休める恵まれた労働環境の保護者はなかなかいないのが現状だとも思います。社会全体が良い方向へ向かっていくためにも、とても重要なテーマだと感じました。
  • 貴重なお話をありがとうございました。自園でも与薬に関して保護者の方とのトラブルが発生しており、対応に苦慮しているところでした。チャットでもご質問させて頂きましたが、指針の前提を基にしつつ、自治体や園ごとに与薬に関しての対応が異なる状況が発生しています。園医とは日常的に連携をとりますが、薬剤師との連携は考えたこともありませんでした。ただ、実際に薬を処方するのは薬剤師の方なので、保育園の実際をお伝えさせて頂く場があれば、保護者の方への薬の処方の仕方も少し変わってくるように思います。嘱託医+嘱託薬剤師がいたら心強いですね。すぐに実現するものではないでしょうけど。

    園の方針を押し付けるわけでもなく、保護者の意向を全て受け入れるわけでもなく、まずは園と保護者の相互理解を深める事が大切であると感じました。また保育士と看護師の意識・認識の差もあると感じていますので、園内での共通認識を持つことも大切ですね。このような部分にスポットライトを当て、研究を進めて下さっている事に感謝申し上げます。ありがとうございました。

  • 非常に勉強になる内容でした。ありがとうございました。私は保育園看護師として勤務しています。当園でも与薬についていつも悩むところであり、事前にご相談いただける状況やご家庭であれば、園長・主任とともに検討できるのですが、前日に受診し、翌日登園時に抗生剤1日3回と言われたため、などと持参するケースに悩むことが多いです。受け入れが看護師・園長・主任不在の早番などの場合、対応する保育者の知識や経験、業務状況により左右されることも多く、ご家庭との信頼関係にも影響するため難しい課題であると感じています。そのことについてもデータに基づいて共有することでき、有意義でした。
  • 研修ありがとうございました。細かなデータの研究で参考になりました。園において与薬は子どもの命に関わることなので与薬する際の注意など再度確認できました。マニュアルの整備や職員の薬の研修などもしていきたいと思いました。

    保育園は地域のお子さんに対して保育サービスを行っていますが、それはポイント制で補助金をもらえます。薬剤師との連携を進めるにあたり、サービスでは事は進まないと思います。善意を示す薬剤師もいると思いますが、報酬も大切です。

    実は私の娘は薬剤師です。業務が多く大変な仕事です。保育園は職員数も多く成り立つ部分がありますが、薬局の薬剤師は絶対数が少なく連携をとっていくのは負担だとも思います。行政、自治体がしっかり進め仕組みを作っていかなければいけないと思います。ありがとうございました。

  • 薬剤師と連携して安全な与薬環境を目指すよりは「保育園に頼らないお薬の指導」「子どもの健康管理」を薬局で丁寧に行ってもらえるとありがたいなと思いました。園で言っていることと薬剤師が言っていることが同じであれば保護者にも納得してもらいやすいからです。薬剤師が保育の現状を知らないのと同じで我々保育者も薬剤師の役割がよくわかっていないと思いました。
  • 乳児院で働いている保育士です。施設により、対応が異なる為、一例として見て頂けるとありがたいです。

    保育所とは条件が全く異なる為、参考になるか分かりませんが、働いている施設では、日焼け止め、虫除け、虫刺され薬、保湿剤、プロペトは市販のものを施設で購入し月齢に応じて使用しています。近くの大学病院の先生が嘱託医として、週2回、内科と外科の先生が来て必要時は処方を受け、何か誤薬があれば電話で確認し指示を仰いでいます。その他地域の小児科、耳鼻科、皮膚科、眼科、歯科、整形外科等に必要時に保育者同行で受診をしており、処方を受けています。どの処方においても、保育所とは異なり、処方した医師にアクセスできる為、薬局との連携は働いていてあまり考えた事が無かったです。保育所と処方した医師の間に、保護者が挟まる事が保育所での与薬の負担感に繋がるように感じました。

    与薬についてですが、保育所とは異なり、ほぼ毎日、1人以上内服薬があり、軟膏の処置があり、時には吸入も行っています。管理表が作成され、誤薬が起きないようかなり細かく管理されています。毎日の事で慣れてしまった事ですが、慣れていない保育所で、また医師からの指示が見えにくい、保護者からの要望がある、といった状況では難しいだろうなと思います。介護施設には調査したとの事でしたが、乳児院も施設によって違いはありますが、与薬の頻度は保育所より高いと思われます。薬局との連携をしている所は少ないと思いますが、参考になる事があればと思います。

    かかりつけ薬局についてですが、私個人での疑問点というか、難しさを感じており、引っ越してここをかかりつけ薬局にしようと思っていたのに、皮膚科の近くにある薬局でしか取り扱っていない軟膏を処方された時に致し方なく皮膚科近くの薬局に行くことになりました。大学病院の側などの薬局以外では、扱える薬の種類に限りがあり、結局いくつかの薬局が必要だなと思った経験です。

ページトップ