センター設立経緯
本発達保育実践政策学センター設立の最初の一歩は、日本学術会議第22期大型研究計画に関するマスタープランにおいて、教育学分野から申請したマスタープラン「『乳児発達保育実践政策学』研究・教育推進拠点の形成:発達基礎の解明に基づく乳児期からの良質な保育・養育環境の構築」に始まります。申請当時、乳児の保育や教育に関する専門の国立研究機関はありませんでした。学術会議に関わる各学術分野 延べ207件の大型研究計画が申請されました。そして66件がヒアリング対象となり、その中から27件(人文社会科学系は2件)が、第22期重点大型研究計画として選ばれ確定しました。 第22期 学術の大型研究計画に関するマスタープラン (マスタープラン 2014)
その後、東京大学大学院教育学研究科より概算要求を申請し、プロジェクト経費として、第二期中期計画最終年度に事業計画が認められ、2015年4月よりセンター立ち上げ準備に取り組みました。そして東京大学において正式に教育学研究科附属施設として、2015年7月1日より、発達保育実践政策学センターの名称のもとに設立が認められました。
研究活動を支える四つの領域
子育て・保育研究領域
近年、欧米圏を中心に、教育学、心理学、医学、保健学、経済学、社会学、福祉学など、実に多様な視座からの人の生涯発達に関わる長期縦断研究が進行してきています。そして、それらは、ほぼ一様に、乳幼児期における被養育環境とそこでの種々の経験の質が、個々人の揺りかごから墓場までの健康で幸福な人生経路の形成や維持にきわめて枢要な意味を有していることを明らかにしつつあります。もっとも、それらの知見は無論、私たち日本社会における子どもの養育や保育に対しても多大な示唆を与えてくれる訳ですが、子育てや保育は、元来、それぞれの社会の歴史や文化に深く根付いているものでもあります。その意味で、日本において、独自に大規模な縦断的調査を展開していくことは必須不可欠の課題であると言えるかと思います。また、将来的に、そこでの知見を他文化圏の知見と有機的に接合することができれば、新たな視点から、人の発達の普遍的な原理を解明する道筋も拓き得るものと考えられます。
子育て・保育研究領域では、こうした認識の下、現在、全国の保育所・幼稚園・認定こども園や自治体等をターゲットにした、保育・幼児教育内容の実態、保育・幼児教育を支える制度・政策の現状、保育士・幼稚園教諭の労働実情・意識等に関わる大規模調査を行なっています。また、子どもを取り巻く家庭内および家庭外の人的・物的環境諸要因と0歳段階からの子どもの心身発達との関連性に関わる縦断研究、さらに、子育て・保育支援と養育者等からの情報収集を目的とするスマートフォン・タブレット向けのアプリを開発しています。
発達基礎研究領域
ヒトがどのように発達するのかについての認識は、その時代の科学、哲学、社会の有様によって変わってきました。特に、急速に進んでいる現代の科学的な研究は、広い意味での生命現象の理解に大きな影響を及ぼしてきました。胚や胎児の段階から、身体や脳の形態はどのような原理で形成され、行動や意識や心の発現へと至るのでしょうか。発生や発達に見られるマクロな現象は、分子や細胞のミクロなレベルとどのように関連しているのでしょうか。乳幼児の身体や脳は、複雑な物理的・化学的・社会的環境のもとで、どのように発達するのでしょうか。言語の獲得や学習にはどのような機構があるのでしょうか。このように、ヒトの発達の原理については、まだ多くの未解明な点が残されています。ヒトの発達の研究は知の総力戦であり、あらゆる学問領域を巻き込むことで、発展すると期待されます。
本領域では、眠る、食べる、遊ぶ、などの人にとっての基礎的な活動に焦点をあて、それらの発達原理を解明にするために乳幼児の身体や脳に関する行動・生理データの計測を行っています。
政策研究領域
現代の政策の研究は、教育学・保育学の領域にとどまらず、発達科学・医学・脳科学での最先端の知見や、心理学・保育学をはじめとした子育て・保育研究の蓄積、さらに哲学・歴史学・経済学・政治学・社会学などの人文・社会科学的な分析の成果を結集して行われることが求められています。発達保育実践政策学センターは、人文・社会・自然・学際融合の各領域を擁する総合大学としての東京大学のリソースを活かし、これらの各分野の最新の成果に基づく政策の研究の発展を図るとともに、政策形成・実施に資する実践的な知見の提示や政策提言、さらにはこれら政策の研究と実践を担う人材の育成を目指して活動を進めています。
これまでの政策研究は、心理学・保育学など子育て・保育を専門とする研究者や、保育所・幼稚園に関わる実務家などが中心となって進められてきました。それらは実践に即した政策の知見や政策形成に一定の貢献を成してきました。一方で、発達科学・医学・脳科学などの自然科学分野の知見が必ずしも政策に活かされているとはいえません。また、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンの研究に代表されるように、就学前教育の効果について諸外国では社会科学的な研究が進んでいますが、日本では保育・幼児教育政策を専門とする社会科学の研究者自体が非常に少ないのが現状です。
本センターは、政策研究部門と発達基礎研究や子育て・保育研究、人材育成などの部門が連携しながら研究を行う学際的・文理融合的な組織であることが大きな特徴です。こうしたセンターの強みを生かしながら、国内外の比較を含めた事例研究、自治体や保育所・幼稚園等へのパネル調査と分析、海外の政策研究者や研究機関との連携・交流などを進め、政策研究の国際拠点の形成と日本の保育・幼児教育政策への貢献を行います。
人材育成研究領域
人材育成領域は、エビデンスに基づく子育て・保育の質向上を支える人材の育成、政策提言のできる若手研究者の育成を中心に、本テーマに関わる様々な人々が科学的知見を実践の場で活かすための支援を目的としています。
21世紀の現代にあって、あらゆる社会問題は複合的要因の下で存在し、その現実に対応できる人材が求められています。保育・教育の問題も多岐にわたり、自然科学、社会科学、人文科学の効果的な連携が不可欠です。人の能力向上を総合的に支える人材育成は、とくに学際的アプローチが必要とされます。本センターでは、「多様性・卓越性のある人材輩出」を掲げ、ヒトの発達・保育の質・保育政策に高度な専門性を持つ人材、子どもの立場に立って現場の問題を解決へ導くことのできる人材、さらに、異なる学問領域、保育現場、行政といった様々な層の活動を大局的に理解し、総合的判断ができる人材など、多彩な育成を図ります。現場の実情から国際的動向まで、幅広く視野を設定し、教材・教育プログラムの開発を進めてまいります。
現在、本学では「知の探求を知の活用へとつなげる環境を備えた 『知の協創の世界拠点』」の創成を全学的に目指しています。文系・理系といった既存の領域を超えた新しい学術を展開する先行的試みに重点を置くものです。本センターはまさにその具現化の一角を担うものであり、人材育成の面でも、国際水準で展開していくことを目指し、社会の皆様への貢献につながる活動を推進してまいります。
ロゴについて
東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センターの英語名称、The Center for Early Childhood Development, Education, and Policy Researchの頭文字をとって、CEDEP(セデップ)の文字から作られています。顔のフォルムを手書きの文字で表現し、かわいらしく人間味のあるデザインにより、学問や研究の持つともすると堅苦しいイメージを和らげ、より人のぬくもりや感情が伝わるようにしました。