Cedep 発達保育実践政策学センター

第1回 発達基礎科学セミナー

日時
2015年6月29日 (月) 16:00〜18:00
場所
東京大学教育学部 010号室
講演

「胎児脳の発達と早産児脳障害」

城所博之(名古屋大学医学部附属病院)

小児科学、神経発達をご専門とされる城所先生に、早産児の脳の問題について、米国留学中および現在の病院でのお仕事を中心に、最近の研究動向と合わせて、基本的な知識から最先端の知見までお話いただいた。「早産児が抱える困難」として、脳室周囲白質軟化症(PVL)を中心にご紹介いただき、本来胎児である25週 前後に出生した児における脳神経系の問題と、それらの児のその後の発達の困難さに関する深刻な問題について提示された。「胎児脳の機能的発達」として、早 産児の脳波によって明らかにされた、胎児期(であるべき時期)の脳機能の特徴をご説明いただいた。速波群発や高振幅徐波の出現の時間的特徴について理解を 深めた。「胎児脳の構造的発達」として、早産児のMRI撮像によって明らかにされた脳の体積、表面積、白質、脳梁、脳溝等の構造発達に関わる情報と、2〜7歳 時点で評価された発達の遅延、障害が相関していることを示された。最後に、「早産児の脳が教える脳科学」として、脳の成熟の遅延が早産児の脳障害の本態で ある可能性を指摘された。また、その遅延は、修正週数があまりに小さい場合には見られないが、満期の(あるいは満期に近くなる)時期に顕在化してくること を示唆された。その後、参加者とともに、脳波計測時や判定時の極意、MRIデータ解析時の標準テンプレートの問題、脳の成熟遅延のメカニズム、脳の成熟遅延とそれ以外の身体構造・機能(例えば、内蔵の発達、心肺機能の発達、血管系等)の関係、血液脳関門の機能、脳溝形成の理論的メカニズム等について議論した。

報告:渡辺はま(東京大学大学院教育学研究科特任准教授)

参加者の声

「今日も午前中に診療をしてきました」との前置きとともに展開されるたいへんダイナミッ クで、かつ繊細な知見の数々に、臨床と基礎研究のどちらにも真正面から向き合ってこそ掴むことができる真実があることを強く感じさせられた。基礎研究のみ を主軸にしていると、特定の手法、見方のみへの焦点化がされすぎることがあるが、今回のお話は、手法としては臨床での観察、脳波、MRI、DTI等、 対象時期としては胎児期(にあたる早産児)、新生児期、乳児期、さらには幼児期や児童期と、多角的な視点からヒトの発達を理解していこうとするものであ り、「まるごと」捉えることの大事さ(と面白さ)を共有させていただいた。医療技術の進歩に伴って、これまでは助からなかった小さい命が救われるように なった現在の小児科の現場において、「せっかく救われた赤ちゃんの脳を少しでもよい状態に!」という闘いが出生後数分を争うフェーズで、あるいは満期に到 達するまでの「出てきちゃったけれど実は胎児期」のフェーズで繰り広げられており、そこに発達基礎科学の知見が様々なレベルで関わることができること、ま た関わらなければいけないことを再認識した。

ページトップ