Cedep 発達保育実践政策学センター

第2回 発達保育実践政策学セミナー

日時
2015年5月13日 (水) 18:00〜20:00
場所
東京大学教育学部 第一会議室
講演

「『保育実践政策学』を志向した試論と実践」

島田桂吾(静岡大学教職大学院)

保育実践政策学を「保育実践」と「保育政策」に関する「知」の「融合」であると考えた場合、保育実践については非常に厚みのある研究がなされてきているが、 「保育政策」については「学」と言えるほどまでに研究が成されていない現状について、歴史的背景や現在の動向についてのお話をいただいた。 平 成18年の「認定こども園法」や平成24年度の「子ども・子育て支援新制度」によって幼保一体化の流れがある中で、自治体単位でその管轄の動向が異なり、 その複雑性と自治体間での取り組みの格差が示された。今後もこのような政策が、就学前の子どもの施設に与える影響を追っていく必要がある。 ディスカッションでは、制度改革が保育の質を担保するために、指導主事といった支援者養成の仕組みの必要性や、エビデンスを示すことによる政策作成側への影響力の可能性など、活発な議論がなされた。

「バーチャルとリアルのあいだ」

廣瀬通孝(東京大学大学院情報理工学系研究科)

VR(バーチャル・リアリティ)技術により、現在どの程度のコストでどのようなことが可能になっているかについて、教育現場や研究への応用について具体的な事例を出しながらお話いただいた。 VRは可視化技術であり、3次元体験もかなりの低コストで可能となってきたが、そこに表現しきれていない要素があることも事実であり、簡易ロボットなど、実体のあるものと組み合わせることで臨場感の演出といった新しい方向での技術開発が進んでいる。 ヒトの人生や、様々な歴史的資料を、映像などで「残す」ことは非常に容易にできるようになったものの、その膨大なデータをどう処理していくかという課題は、その技術を使っている者に残された大きな課題である。 ディスカッションでは、ライフログの研究応用の可能性といった研究ツールとして利用する側からの視点の他に、VRと日常的に接していくこととなる子どもへの影響という、その技術の受け手側からの問題定義もあり、多くの視点から議論が展開された。

参加者の声

今回は、昨年度に実施してきたIDEA(Institute for the study of Development and Education of“Akachan”)懇談会を発展させた、「発達保育実践政策学セミナー」の第2回であった。 前半のテーマはまさに、「政策」について。保育の分野では、「実践」重視で、「政策」については成り立ちや管轄、その仕組みや効果なども十分に検討がなされたと言えないまま進んできている現状が浮き彫りとなり、子どもの発達の根幹となる時期に関わる部分がこのような状況でいいのかということが改めて認識され た。保育の質の担保も、その仕組みがあってこそ維持されるものであり、「実践」と「政策」がエビデンスを介して融合し、子どもにとってより良い保育が展開されていくよう、実践研究であっても、「政策」という広い視点を持ちながら進めていく必要性が感じられた。 後半では、VR技術の今後の研究への応用可能性について、さまざまな技術がすでに非常に身近に安価で利用可能となっていることに驚きを隠せなかった。ただ、ライフログを含む様々な記録・記憶媒体が進化するほどに、その技術を適切に使用・活用できる力量も要求されているのかもしれない。議論の中で、子どもが、実世界ではなく、バー チャルを先に経験していくことが今後増えていくことは確実であり、それが発達上どのような影響があるのか十分な研究が行われ、その視点が「政策」に還元されていくのかという疑問が投げかけられたが、これは今後の大きな研究・実践上の課題になるように思われた。

報告:清水悦子(東京大学大学院教育学研究科身体教育学コース博士課程3年)

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